メンタルフレイルー生薬と予防ー
九州漢方研究会・長崎国際大学薬学部 正山征洋
九漢研リモート研修会 20210822
- 認知的フレイルについて
近年フレイルと言う言葉が目立つようになってきた。フレイルは要介護になる手前の状態を示す。現在医療費の急拡大に伴い健康寿命の延長が叫ばれているので、フレイルは極めて重要な分岐点と言える。フレイルには身体的フレイル、社会的フレイル、心理的・認知的フレイルがあるが、今回は認知的フレイルに絞って話を進める。 - 認知症患者の推移
日本の認知症患者数の増加状況は2025年には700万人を超え、2060年には1100万人を超える予測が出されており、極めて深刻な状況と言える。この状況を受けた国としても大綱を設け、70才代の発症を10年間で1才遅らせる、70才代の認知症患者を1割減らす、発症や発症後の進行を遅らせる予防の取り組みを推進、認知症になってからも自分らしく暮らせる社会の実現、等が打ち出された。
認知症の種類
1) アルツハイマー病
βアミロイドタンパク蓄積・脳内神経細胞の急激な減少・脳の委縮 高度の認知障害 知能低下・ 人格崩壊
2) 脳血管性障害
記憶障害 認知障害 知能低下・言語障害
3) 前頭側頭葉変性症
脳の前頭葉 (コントロールセンター)・側頭葉 (記憶視覚感情が委縮し、特異タンパクが蓄積・言語障害・ 自発性関心の低下
4) レビー小体病
脳神経細胞にタンパク塊が蓄積 幻覚・妄想が強くなる
5) パーキンソン病
伝達物質のドーパミン減少
認知症の種類を上記にしめす。これらの中でアルツハイマー病が50%以上を占めるので、今回はアルツハイマー病を中心に進める。現在までにアルツハイマー型認知症に対する医薬品は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤としてアリセプト、ガランタミン、リバスチグミン等が、又、NMDAレセプター阻害剤としてメマンチンが臨床で用いられている。今年になり、アミロイドタンパクに対するモノクローナル抗体薬、アデウカムマブがアメリカFDA で緊急承認され、アルツハイマー病の予防に大きな期待がかけられているが、長期間投与の必要性があることから薬価が高額におよぶため、臨床応用されるかどうかの議論もなされているところである。
4.メンタルフレイル予防に有効な生薬
緑茶、ニンニク、ショウガ、ウコン等が認知症に有効な事が示されているが、今回は人参、イチョウ葉、サフランについてアルツハイマー病患者に行われた臨床試験結果を見ながら話を進める。
5. 中医薬、塞络通胶囊(SaiLuoTong)について
塞络通胶囊は中国でつくられた人参、イチョウ葉、サフランの混合エキスである。脳血管性認知症患者に対する臨床試験が行われ、有効との結果が出された。現在中国やオーストラリアでフェーズIIIの臨床試験が行われており、今年中には承認申請がなされるとの情報が入っており、来年には医薬品となるものと考えられる。
以上、認知症に有効な生薬についての臨床試験を中心に進めて、認知フレイル予防に対する応用について言及し、応用の是非について議論する予定である。