生薬(人参)講義要旨202203
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人参
正山征洋
九漢研・長崎国際大
Panax 属については、オタネニンジン、トチバニンジン、アメリカニンジン、デンシチニン
ジンが主として流通しています。
オタネニンジンの基原植物 Panax ginseng C.A.Meyer
学名の意味 Panax: 万病に効く ginseng:人参の中国語の発音から
C.A.Meyer: 命名者名
神農本草経 上薬
意釈神農本草経(浜田、小曾戸著)
甘 微寒
肝、心、脾、肺、腎の五臓の気を補う
精と神、即ち腎臓にたくわえられている精神的要素の精気と、心臓に蓄えられている精神的
要素の神気の働きを安らかにし、魂と魄(こんぱく)、即ち肝臓に蓄えられている精神的要
素の魂気と、肺臓に蓄えられている精神的要素の魄気の働きを定め、また、直ぐに物事に驚
く精神不安や、すぐにドキドキして胸苦しくなる心臓の動悸をとめ、人に悪い影響を与える
邪気を除き、目が明らか見えるようにし、心孔を開き、つまり、心臓の働きをよくし、智を
益す、つまり、頭の回転を良くする作用が有る。久しく服すれば、だんだんと身の動きが軽
くなり、年齢を延ばせるようになってくる。
アメリカニンジンはカナダ、アメリカ北部に自生していましたが、現在は大量に栽培されて
います。以下が歴史的背景や薬効です。
1711 年 フランス宣教師――ロンドン王立協会――モントリオール在住宣教師へ情報
1716 年 原住民発見
1735 年 Panax quinquefolius Linne の学名
1800 年代 自生株激減、栽培化開始
現在 アメリカ、カナダ、中国へ 1000 トン輸出
中国薬学大典(陳存仁著)
鎮定安神藥
老人唾液分泌促進、口内炎、歯肉炎症、内熱上昇不眠ー内熱低下・安眠、神経衰弱、咳・喀
血
人参の薬性温熱 弱った老人・手足の冷え強い人へ
独参湯受付難い人へ 人参・洋参同量投与ー温熱と清涼が調和ー冷えを治し補身
デンシチニンジン 田七人参 三七人参
学名 Panax notoginseng noto は南のと言う意味
中国高貴薬 止血 抗凝血薬 血栓予防 強壮
中医薬処方:安血飲、化血丹、七宝散
エキスの注射剤
トチバニンジン 竹節人参 竹参 学名 Panax japonicus
人参の代用 去痰 鎮咳 胃
人参の成分
多糖類(中性、酸性):パナキサン類
ポリアセチレン:パナキシトリオール等
フェノール系成分:ケイヒ酸等
アルカロイド類:β-カルボリン系
リグナン類:ゴミシン等
核酸類:アデノシン等
ペプチド類:酸性ペプチド、グルコプロテイン等
サポニン類:ダンマラン系、オレアナン系少数
薬理効果の証明
循環器疾患
高脂質ラット、心筋細胞
アメリカニンジンの茎・葉が抗酸化作用強いー心疾患を改善予測
心筋に障害あるラット
アメリカニンジンの全サポニン投与し障害改善ー虚血症状を介して改善、カルシュウムチ
ャネルをブロック
高脂血症ラット
アメリカニンジンの全サポニン投与し抗凝血作用発現、活性酸素消去酵素を上昇
血糖降下作用
糖尿病マウス
全人参サポニン投与ー血糖値降下作用
ギンセノシド Rb1 投与ー血糖降下作用、インスリン感度上昇作用
インスリン感受性細胞
ギンセノシド Rb1 投与ーインスリンのシグナリングを活性化ーグルコースの移動を活性化
ギンセノシド Rb1 投与ー糖添加によりインスリン分泌を活性化ー血糖値を低下
ノーマル、アロキサン誘導糖尿病マウス
アメリカニンジンから単離したポリサッカライドー血糖値を低下
抗腫瘍活性
ヒト肺がん細胞
アメリカニンジンエキスー抗肺がん活性、紅参がより効果的
ヒト大腸がん細胞
アメリカニンジンエキスー抗大腸がん活性、紅参がより効果的
In vitro, in vivo 研究多数
ギンセノシド Rg3
臨床を経て抗がん剤(がん転移阻害剤)
脳神経系 細胞・動物実験
人参とその成分がインビボ、インビトロ実験で神経細胞の伸長と神経細胞死の抑制を行う
ことを示している12)。ジンセノシド Rb1とRg1がコリントランスフェレースレベルを
高めることから、記憶を高め認知症に有効と結論している13)。
スコポラミン投与により記憶障害をおこした老齢および脳障害ラットを用いて、ジンセノ
シド類の認知機能を検討し、人参の記憶学習促進効果を明らかにしている14)。
ジンセノシド Rc が SIRT1タンパクとアフィニティーを持つことをドッキング実験で確認
38)。心筋細胞と神経細胞を用いて実験を進め、ジンセノシド Rc が SIRT1タンパクのアク
チベーターで、ミトコンドリアのダメージを保護することにより神経細胞のエネルギー代
謝を促進し認知機能を高めると解釈。
神経障害の回復に田七人参エキスを注射することが多々あるがそのメカニズムは不明。ラ
ットに中大脳動脈閉塞手術 7,14,28 日後における脳機能と Nogo-A 等関連因子(神経軸
索伸長阻害)の発現を観察。7 日後には因子が増加し14、21 日にピークに達し以後高い
レベルを維持。一方、田七人参サポニンを投与した群では上記因子が減少。このことから田
七人参サポニンは Nogo-A タンパク等の発現を抑制し脳梗塞を改善。
田七人参のノトジンセノシド R1 を経口前投与し、ラットに脳梗塞を起こし、梗塞部位のア
ポトーシスをチェックし、ノトジンセノシド R1 がアポトーシス阻害作用により脳梗塞を予
防することを解明。
アポトーシスは酸化作用、炎症作用、セラミドの産生、アポトーシス関連因子の促進等で起
こる。予防はグルタチオンを増やす等。
ノックアウト・アルツハイマーモデルマウスを用いてノトジンセノシドR1(田七人参固有
成分;上図)のアルツハイマーに対する効果を調査。5mg or 50mg/kg/日を3ヶ月経口投
与し、動態、脳神経病理学、アミロイドタンパクの状態を調査。認知機能を高め、アセチル
コリンを造る酵素の発現を増加、アミロイドタンパク蓄積を抑制、インスリン分解酵素を阻
害。以上の結果からノトジンセノシドR1は認知症予防に有効と結論。
Lee 等は人参とその成分がインビボ、インビトロ実験で神経細胞の成長と神経細胞死の抑制
を行うことを示している12)。
ジンセノシド Rb1とRg1がコリントランスフェレースレベルを高めることから、記憶
を高め認知症に有効と結論している13)。
スコポラミン投与により記憶障害をおこした老齢および脳障害ラットを用いて、ジンセノ
シドの認知機能を検討し、人参の記憶学習促進効果を明らかにしている14)。
Itoh らはジンセノシド類が大脳皮質にドパミンとノルエピネフリンを増加させることから
人参が認知処理や感覚運動機能の統合に役立つことを明らかにしている15)
脳血管性認知症モデルマウスを用いた場合、アポトーシス抑制因子、例えば BCL-2 や HSP-
70 は減少し、促進因子 BAX,P53 は増加する。一方、ジンセノシド Rg2(2.5,5,10
mg/kg)を投与した場合、 BCL-2 や HSP-70 は増加し、 BAX,P53 は減少した。この結
果、ジンセノシド Rg2 は抗アポトーシスに関与したメカニズムにより神経活動や記憶力を
改善すると結論した 16)
人参の臨床
97 名のアルツハイマー患者を対象として12週間のダブルブラインド臨床試験(58名人
参粉末 4.5g/日投与群、39 名無投与コントロール群)
人参パウダー投与群は上記評価で改善がみられ、人参投与を中止するとコントロール群と
同様となった
以上から、人参パウダー4.5g/日投与は AD の認知機能に対して臨床応用可能と結論してい
る
まとめ 人参・アメリカニンジン・田七人参
(ジンセノシド類)の薬理効果
循環器疾患改善作用
抗腫瘍活性
血糖値下降作用
脳梗塞予防・改善
神経細胞死の予防
アセチルコリン量を保持
抗認知活性